遺言の無効、取消、撤回
○遺言が無効となる場合
◇法定の方式によらない遺言
遺言は法律の規定に則って作成されている必要があり、規定に反する遺言は無効です。
◇遺言能力を有しない者の遺言
遺言は15歳に達しなければすることができません。(民法961条)
通常の法律行為は、未成年者は単独ではできず、法定代理人(親権者または未成年後見人)の
同意等が必要ですが、遺言に関しては15歳に達していれば単独でもすることができるという
ことになります。遺言をするには、完全な行為能力は必要ありません。制限行為能力者には、
成年被後見人、被保佐人、被補助人などがありますが、遺言時に意思能力があれば遺言をする
ことができます。また成年被後見人でも、精神上の障害が一時回復して意思能力を持っていれ
ば、遺言することが可能ということです。しかし、成年被後見人が精神上の障害が回復してい
るかどうかは、医師2人以上の立会いが必要になります。
◇被後見人の遺言の制限
被後見人が、後見の終了前に、後見人またはその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺
言をしたときは、その遺言は無効になります。「精神上の障害により判断能力を欠く状況にあ
る者」で家庭裁判所の審判を受けた者を成年被後見人といいますが、後見人とはこの者の法律
行為を代理する立場にあります。このような関係から、被後見人は後見人にコントロールさ
れ、後見人にとって都合のいい遺言をさせられることがありえますので、このような場合は無
効とされています。しかし、後見人が被後見人の直系血族、配偶者、兄弟姉妹である場合は適
用が無く、無効とはなりません。
◇実行不可能な遺言
遺言が実行できないような内容のものは無効となります。
例えば、存在しない預金を遺贈する、火災で焼失した建物を遺贈する、という内容です。
◇遺言内容が特定できない場合
どの財産を誰に遺贈するのか判断できないような内容は無効となります。
例えば、遺言者が複数筆の土地を所有していた場合に、遺言に「長男に土地一筆を遺贈する」
とだけ書いているような場合です。
土地を一筆では、どの土地なのか特定できません。このような場合は無効です。遺言書で不動
産を特定するときは、登記情報を取得して正確な所在、地番等を記載しなければなりません。
また、建物は、未登記の場合もあります。このようなときは、固定資産評価証明書などを取得
して、その記載を利用するなどして特定しなければなりません。
◇法定事項以外の遺言
法定遺言事項としては、以下のものがあります。
●遺言認知
●法定相続人の廃除又は排除の取消し
●相続分の指定
●遺産分割の方法の指定
●特別受益の持戻し免除
●遺産分割の禁止(5年が限度)
●遺留分減殺の方法の指定
●遺贈
●遺言執行者の指定
上記以外の事項を遺言書に記載しても法的な意味はあまりありませんが、書いてはいけないと
いうことではありません。ただし、法定遺言事項の内容が不明瞭になるようなことは書かない
ほうがよろしいです。
◇公序良俗に反する事項を内容とする遺言
公序良俗(公衆の秩序及び善良な風俗)に反する遺言は当然に無効です。ただし、全体が無効
となるのではなく、公序良俗に反する部分のみ無効と解されています。
◇要素の錯誤のある遺言
要素の錯誤とは、錯誤がなければ法律行為をしなかったであろうと考えられる場合で、かつ、
取引通念に照らして錯誤がなければ意思表示をしなかったであろう場合をいいます。遺言者が
要素の錯誤に陥ってした遺言は無効になります。
○遺言の取消原因
詐欺・強迫による遺言がなされた場合、遺言者はその遺言を取消すことができます。
遺言者の死後は遺言者の相続人は包括的に遺言者の権利義務を承継していますので、相続人か
ら取消することが可能です。
○遺言の撤回
◇遺言者はいつでも、遺言の方式に従って遺言の全部又は一部を撤回することができます。(民
法1022条)
遺言を撤回する権利は放棄することができない(民法1026条)ので、「この遺言が最終遺
言であり、撤回することはありません」と書かれていても、後の遺言で撤回していれば撤回は
有効となります。
◇撤回の方式
遺言を撤回するには、「遺言の方式」に従ってしなければなりません。撤回する場合、先の遺
言と同方式でする必要はなく、公正証書遺言の後に自筆証書遺言で撤回することも可能です。
◇民法で定められた撤回(民法1023、1024条)
●前の遺言と後の遺言との抵触
前後の遺言で内容がくい違う部分についてのみ撤回したとものみなされます。
例えば、「甲及び乙土地をAに遺贈する」と前の遺言で書いているが、後の遺言で「甲土地は
Bに遺贈する」とあれば、甲土地をAに遺贈することが撤回されたとみなされますが、乙土地
をAに遺贈することについては撤回とはみなされません。
●生前処分その他の法律行為との抵触
遺言者が遺言をした後に、その遺言内容と抵触する生前処分その他の法律行為をした場合も、
抵触する部分を撤回したものとみなされます。
例えば「甲土地をAに遺贈する」と遺言で書いているが、生前に甲土地をBに売却したという
ような場合です。遺言者が故意の場合も過失の場合も同様です。
●遺言書の破棄
遺言者が、故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については遺言を撤回したとみ
なされます。
●遺贈の目的物の破棄
遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回し
たものとみなされます。
○撤回された遺言の効力
撤回された遺言が更に撤回される、取り消される、又は効力を失った場合でも先の遺言(撤回
された遺言)の効力は復活しません。(民法1025条)
例えば、遺言者が最初の遺言で「甲土地をAに遺贈する」という遺言をした後、次の遺言で
「甲土地をBに遺贈する」という遺言をした。この場合は、最初の遺言が撤回されたとみなさ
れますが、次の遺言である「甲土地をBに遺贈する」という遺言を撤回したとしても、先の遺
言である「甲と地をAに遺贈する」という遺言は復活しません。
ただし、詐欺や強迫により遺言が撤回された場合は、先の遺言が有効として復活します。遺言
者の意思は、先の遺言にあると考えるのが妥当だからです。
遺言書の作成には、方式など様々な決まりがあります。
それらが守られていないと無効になってしまいます。
弊事務所では、無効にならない遺言書の作成をしっかりとサポートいたします。